教室で教科書片手に生徒たちと楽しく会話をしながら自由に授業を進める、日本語教師に漠然と持つイメージはそんな感じではないでしょうか。授業ではもちろん教科書を見ながら授業を進めるわけですが、日本語教師の手には必ず教科書と一緒に「教案」が握られています。
教室での授業をスムーズに進めるために欠かせない教案とはどんなものなのでしょうか。
効率的で役に立つのはどんな教案なのでしょうか。
教案とは
教案とは、簡単に言えば授業を進めるためのあらすじのようなものと理解できます。教案に書くのは大まかな流れや大切な文型だけにして、なるべくシンプルにしましょう。
時には一言一句細かく、どんなことを言うのか、どんな風にキュー出しをするのかなど、細かく書いてある教案を見ることもありますが、それではあらすじではなく完全に台本になってしまいます。
私も細かい教案を作って模擬授業を行うレッスンを見たことがありますが、ほとんど生徒ではなく教案を見ているような感じで「これじゃ生徒は飽きちゃうよな・・・」と感じました。というのも、授業はあくまで生徒と対面して行い、その時その時で反応や理解度なども違いますから、完全原稿を作ってもほとんど意味がないのです。
シンプルなもののほうがいろいろ柔軟に対応でき、教師もずっと生徒のほうを見ながらいきいきと授業をできますね。
実のところ私も日本語教師を始めてすぐのころはこの教案作成にかなり時間がかかり、毎晩夜遅くまでかかり、一週間が終わるころにはもうヘロヘロになっていました。試行錯誤した結果、シンプルなものが一番効率的で学習効果も高いように感じます。
教案の作り方と授業準備
では、効率的で役に立つ教案とはどんなものでしょうか?
授業のあらすじを作るようなつもりで、内容はあくまでシンプルを目指していきましょう。
例えば、内容としてはだいたい以下のようなことを含められます。
- 授業実施日 :
- 使用テキスト:教科書のどの課を扱うのか。
- 目標 :その日の授業で目指す、できるようになること。
- 文型・例文 :その日に扱う、導入する文型と例文。
- 教具 :絵カード、文字カード、フラッシュカード、写真、レアリアなど、その日の授業に使うもの。
- 注意・覚書 :扱う際に生徒が間違いそうなこと、理解が難しそうなところをあらかじめ想定して書いておく。授業が終わった後今後注意が必要な点を書いておく。
まずは、授業実施日、範囲など基本的な内容を書きます。
そして、その授業で生徒たちが学習する内容の「目標」を書いておきます。つまりその1コマの授業が終わった時生徒の理解度がどんな感じかを決めておく、「完成予想図」のようなものと考えもいいと思います。教師が向かう方法をわかっていなければ、生徒もどの方向に向かって学んでいけばいいかわからず迷ってしまいます。
この項目を書く際、「文型が分かる」ではなく、「できるようになる」を意識して書いていくといいと思います。文法積み上げ型の授業では、生徒は文型を覚えたら満足してしまうことが多いようです。そのため、教師のほうでその文型を使って生徒ができるようになってほしいことを意識し、そこに向かって授業を進めていくことで、より実践的な内容が学習できます。
また、その日に導入する文型と、例文も書いておくと便利です。教案に何通りかの例文を書いておけばそこからいろいろなバリエーションを膨らませることもできますし、なにかと安心ですよね。
教案のサンプル
実際に私が授業で使っている教案をサンプルとしてご紹介します。
以下はみんなの日本語11課の教案サンプルです。
- 授業実施日 :2018年12月1日 9:30~
- 使用テキスト:みんなの日本語 11課③
- 目標 :<11課の目標>数詞を覚えて、適切な数詞を使い分けられるようになる。
<11課③の目標>回数の数え方を覚える - 文型 :<期間>に~を~ます / <期間>に~へ/に~ます
1日に2回歯を磨きます。
1週間に5回学校に行きます。
1か月に4回家族に電話をかけます。 - 例文 :
1日に何回薬を飲みますか。
1週間に何回~先生に日本語を習いますか。
1日に何回恋人に連絡しますか。
1週間に1日だけ仕事を休みます。 - 教具 :量詞のプリント「ひとつ、ひとり、いちまい、いちだい、いっぴき」(前回の復習用)、歯ブラシ(一日に何回歯を・・・の際に使用)、カレンダー(一か月/一週間に 何回・・・の際に使用)、薬の袋(一日に何回薬を・・・の際に使用)
- 注意・覚書 :いろいろな期間を設定する。できるだけ違う種類を練習する。
「だけ」の使い方に注意。「だけ」の後に助詞は言わない。「だけに」と助詞を言うことがある。
実は、この中で一番大切なポイントは最後の「注意・覚書」です。
教案をどんなに作り込んでも授業で実際に生徒からどんな反応があるのかは完全に予測できません。授業が終わってから毎回反省点や、「もっとこうすればよかったな」と思うことは多々あります。「教案作りは授業が終わってからが勝負」を合言葉に、毎回授業が終わったら反省点などのメモを必ず書き足していきます。こうしておけば、次回の授業の際にはこのメモに目を通しておき、また毎回授業の経験を積み重ねていくことができます。
まとめ
日本語教師の仕事は実際に教室で教えるだけでなく、実のところ家でサービス残業している時間も相当長いのも実情です。毎回一から教案を作っていくのでは時間がかかりすぎてしまうので、できれば毎回授業の前後に教案を作り上げていくのが効率的ですね。
生徒によっても反応や理解度はその時その時で違いますから、教案自体はシンプルにしておいて、「注意点・覚書」欄に感想や反省点、時には小ネタなどいろいろ書いておけばそれが日本語教師の大切なネタ帳にもなるというわです。
生徒たちが楽しんで勉強できるよう、生徒が授業の後に「先生わかった!」「話せた!」「先生ありがとう!」という笑顔を想像しながら、自分なりの教案を作っていきましょう。