日本語教師をイメージするときに漠然と頭に浮かぶのは、笑顔で生徒にハツラツと教える、人間としても魅力があり、いつもハキハキした声で話す優しい先生という感じではないでしょうか。
私自身もそんな日本語教師でありたいといつも思っています。こうした「いい先生」のイメージの背後にあるのは具体的にどのような資質、特質なのでしょうか?今回は、私自身が色々な現場で見聞きし、生徒、経営者、教師自身が理想と感じる、日本語教師に必要とされる特質やパーソナリティを5つの分野に分けてご説明したいと思います。
- 言語力
- 教育力
- 人間力
- 分析力
- 組織力
目次
1.言語力
日本語の知識
言うまでもなく、日本語教師が日本語そのものについての知識を知っていることは必須条件です。文法知識について熟知しており、さらに学校文法と日本語文法両面を理解し、違いを把握している必要があります。
分かりやすく話す能力
音声言語としての日本語をわかりやすく、丁寧に話せるかどうかも大切なポイントです。いくら大量の知識があっても声が小さい、ぼそぼそとしか話せないようでは教室では通用しません。
生徒は先生の話す日本語を脳に蓄え、それを核として自分の話す言葉をモニタリングしていきます。教師の声は生徒にとって日本語の重要なサンプルであることを意識し、わかりやすく聞きやすい声で話し、表現する言語力も必要です。
外国語力
直接法で教育現場で日本語を教えていても、生徒が話す母国語に対する理解は欠かせません。それぞれの言語によって日本語を学習する上で有利な点、不利な点があります。ある言語を話す人によくある間違いも、その言語についての知識がある程度あれば、どんな間違いをしやすいのかも簡単に理解できるでしょう。
この点で教師自身が外国語を積極的に学ぶ姿勢があると生徒に対し同じ外国語学習者として同じ目線に立って教えることができます。実際、教室で話す機会はなくても生徒の話す言語を理解できる日本語教師のほうが人気があります。
2.教育力
知識があることと、それを教えられることとでは当然大きな違いがあります。日本語教師は生徒の間違いを見極め、指摘し、正しい方向に導くことが必要です。しかも定められた時間の中で最も効率的な教育を、選択し実施していかなくてはなりません。
イメージ、シミュレーション
教師は教室という閉ざされた空間の中で、生徒に実際の日本語を話す現場での会話を想定させる必要があります。教師は生徒にさまざまな場面をイメージさせ、シミュレートし学んだことを発揮する場を与える必要があります。
自己教育力
さらにこの教育力には自分を教えることが含まれます。日本語教育にしても、外国語教育にしても現在も日進月歩の研究分野であり、言語は生き物のように絶えず変化し続けています。教材、道具、レアリア、活動など教師が常に自分の教え方や教える内容について常に疑問を持ち、好奇心を持って学び続けていなければ教師として時代遅れになってしまうでしょう。
3.人間力
人間的な魅力
日本語教師が対峙するのはパソコンでも機械でもなく、心を持つ人間です。その人間に毎日対応していくには教師としての忍耐力や人間的な魅力が不可欠です。生徒は自分が払ったにせよ親が払ったにせよ、毎回それなりの費用と犠牲を払って教室に来ています。その生徒たちが満足し「またあの先生の授業を受けたい」と思ってもらうのは、人間的な魅力、持ち味やユーモアが必要です。
臨機応変さ
生徒の環境や文化、言語的背景を理解し、それに応じてフレキシブルに対応できる臨機応変さ人間力に含まれるでしょう。
気力・体力
また忘れてはならない点として、一日中教室でハキハキと話し、歩き回り、板書をし、休み時間にも生徒と会話をしていると退社時には本当にくたくたになります。教師としての人間力には、人と接していて疲れないという部分だけでなく、相応の体力と健康も含まれます。
4.分析力
この分析には生徒、教材、状況などあらゆる分野が含まれます。
生徒についての分析
まずは生徒の住む国や文化を分析しておく必要があるでしょう。さらに、生徒が話す言葉を聞いて分析し、生徒が何を理解し、理解できていないかを分析するのも日本語教師の大切な仕事です。また生徒の育った国の文化や母語を分析し、どのような教え方がその国の生徒に有効のかも理解する必要があるでしょう。
教材・教授法についての分析
100%完ぺきな教材など存在しないわけですから、生徒や学校のニーズに合わせ、学校で採用している教材の特色を理解し、自分で過不足を補い、取捨選択し、アレンジして使い分けられる分析力が必要です。
5.組織力
教室運営力
教室運営もいわば一つの組織力で、数十人の生徒をまとめ、導き、成長させるには、その一時間教室をまとめるだけでなく、数か月、数年にわたる長期的な視野になった組織力と視点が必要です。
経営力
さらに、海外の小さな日本語学校において、時には教師に経営的な仕事やアドバイスを求められることもあります。どうすればより多くの生徒を獲得できるのか?経営者でなくても、教師として生徒を増やすにはどんな方法があるのかを常に考え、できることから教室で実践する必要があるでしょう。
変化し続ける日本語ニーズを現場でじかに感じ取っている教師は経営者にとっても貴重なアドバイザーです。すぐに学校経営の側で働く予定がなくても、常に教師として組織者、経営者の視点を持っておく必要があります。
まとめ
今回は、自分自身日本語教師としてさらにこうした面で成長したいという自戒の意味もこめて、5つの点をご紹介しました。
- 言語力(日本語の知識、分かりやすく話す能力、外国語力)
- 教育力(イメージ、シミュレーション力、自己教育力)
- 人間力(人間的な魅力、臨機応変さ、気力・体力)
- 分析力(生徒、教材、教授法への分析力)
- 組織力(教室運営力、経営力)
日本語教師とは、日本語を探求する学者のようであり、現場で選手と一緒に汗をかくトレーナーのようでもあり、同時に生徒の友達のようでもあり、会社を経営する社長のようだと感じています。
日本語教師は「ことば」と「ひと」という一筋縄ではいかないものに日々対峙する難しい仕事です。同時に本当にやりがいのある仕事です。この仕事でそれなりの成果を上げていくためには、人間としての総合的な能力が必要ですね。